東京・武蔵野市「三光院」乗っ取りの顛末

精進料理で有名な尼寺で何が起きているのか?

「周囲には、いつもニコニコ笑顔を振りまき、シニア世代の生き方を説いた本も出していて、人当たりもいい人格者だということで、住職兼代表役員への就任を依頼しました。けれども、それが大きな間違いでした。わたしたちが、もっと早く、彼女の本性を見抜くことができていれば、寺院の存亡にかかわるような〝トラブル〟に発展することはなかったのですが…」

 JR中央線・武蔵小金井駅から徒歩15分ほどの場所にある臨済宗・國泰寺派「三光院」は、室町時代から約600年にわたり継承される精進料理を提供することでも知られ、これまでに新聞や雑誌など、数多くのメディアにも取り上げられる尼寺だ。同寺院で料理長を務める西井香春さんは、後悔の念をにじませる。

「わたしは14歳で母を亡くし、16歳のときに親戚でもある(女優の)岸惠子さんを頼って渡仏。パリでは惠子さんのマネジメント業務を手伝うほかに、フランス料理を学び、40歳のときに帰国しました。その後はフランス料理研究家として活動を続ける一方で、日本料理についても学びたいと思い、30年ほど前に縁あって三光院の二代目住職・星野香栄禅尼に師事することになり、今日にまで至っています」

 西井さんは、10年ほど前からは老衰が進む二代目住職の介護にも携わるなど、献身的に支え続けた。2人は、師弟を超えた親子のような関係にあったというが、2020年8月に二代目住職が死去したことにより、三光院を取り巻く状況は一変する。西井さんが説明する。

三代目住職探しは難航…

「香栄禅尼は、わたしが三代目住職に就任することを望んでいました。しかし、わたしは、住職になるために必要な僧籍を持っていません。それにより、大きな問題が浮上しました。そもそも三光院は、富山県にある臨済宗國泰寺派に属しているのですが、このまま、國泰寺派の資格を持つ三代目住職を迎え入れることができなければ、寺院の不動産や宝物など、すべての権利が本山の管理下に入ってしまうという事実が発覚したのです」

 そこで、西井氏を中心に三光院は、三代目住職探しに奔走する。そして、最終的に、白羽の矢が立ったのが、臨済宗・建仁寺派「高台寺」(京都)で副執事を務めていた小泉倖祥氏だったという。どんな人物なのか?

「1987年5月1日〜99年4月30日まで3期(12年)にわたり、林田富紀子(2期目の途中からは塚田富紀子)の名前で与野市議会議員を務めていたことは間違いございません」(さいたま市議会局総務部)

 彼女の著書『人生100年時代 元気で長生き 深く長息!!』によると、

〈昭和18年8月28日、埼玉県浦和市(現さいたま市)に生まれる。埼玉大附属幼稚園〜大妻女子大学短期学部卒業。第一勧業銀行日本橋支店・外国為替入行(現みずほ銀行)。結婚後、子育てと公文式算数・数学教室開設、指導員。45歳、市議会議員立候補(現さいたま市)3期連続当選〉とある。

三代目住職の謎めいた過去

 市議会議員時代から小泉氏のことを知る人物が、その後の経歴を語る。

「市議を辞めたあとは、京都の花園大学仏教学科(社会人クラス)で学び、出家したのですが、どこの寺院も長続きせずに転々としていたようです。しかも一度は出家したにもかかわらず、プロ野球オリックス・バッファローズ元球団社長の小泉隆司氏と再婚し還俗。ところが、再婚相手が短期間で亡くなったため、再び尼僧に戻りました」

 2022年1月に三光院の三代目住職に就任した小泉氏は、寺院を乗っ取ろうとするかのような不穏な動きを見せ始める。

 小泉氏は、自分たちの計画を実行するうえで都合の悪い三光院の役員や西井さんの料理スタッフの追放を始めるのだった。

 小泉氏の追放の手口について役員が語る。

「そもそも小泉氏は、室町時代から続く精進料理を伝承する三光院にやって来た初日から、『A5ランクの牛肉を食べましょう』と、平然と焼肉を食べていました。また小泉氏は、その場にいない人の悪口を言い始めて、同意を求めてくるのです。『あの人は韓国人だから』『あの人は中国人だから』というようなヘイト的な発言も多々見受けられるなど、不信感しかありませんでした。平気でウソをつくし、言うこともコロコロ変わる。僧侶というよりも詐欺師のような印象しかありません。

 さらに、昨年12月11日に小泉氏の代理人を名乗る元新聞記者のSさんが突然やって来て、『いまの異常な三光院とは距離を置いてください。近々、都子さん(西井さんの本名)らは有印私物書偽造罪で訴えられるので、関わっていると、あなたの従犯になる危険性があるからね』『刑法159条の有印私物書偽造罪が確定すれば、懲役5年以下になります』。さらに、その翌日にもSさんから『あなたも連座しますね』と迫られました。  当時のわたしは、小泉氏の度重なる言動に嫌気がさして、心身ともにとても不安定な状態でした。そのため、彼らの言っていることをついつい真に受けてしまい、これ以上、面倒なことに巻き込まれたくないと、ただ言われるがままに、役員の辞任届を書かされて、三光院とは距離を置くようになったのです」

住職にネットワークビジネスを勧められた

 さらに、三光院で料理修業をしていた元スタッフAさんは、小泉氏から執拗にネズミ講的なビジネスに誘われていたことを明かしてくれた。 「三光院で働くようになってまもなくしたころ、小泉氏から『料理修行はお金にならないでしょう。この若返りの薬を売りなさい』と勧められました。『西井先生のもとで料理修行中なので、できません』とお断りしたのですが、『西井先生には黙っておけばいいのよ。雑誌広告にも載っている有名な薬だから月に30万円は稼げるわよ。売る人がいないんだったら、家族に売りなさい。家族だったら買ってくれるわよ』と。また、小泉氏から『精進料理には未来がない。寺院の運営にはお金が必要だから、境内に老人ホームとアパートを建てようと思っている。あなたも協力しなさい』と言われたこともあります」

 元スタッフBさんの証言によると、小泉氏は、このような計画も口にしていたという。

「調香師をやっている娘の商品を三光院の名前をつけて販売したい」「娘はヨガのインストラクターもやっているのよ。近々、三光院の境内でヨガ教室を開校するつもり」「樹木葬はこれから需要が増えるから儲かる」「小金井市議への出馬も検討している」

 まさに三光院を利用して、私腹を肥やし、自身の虚栄心を満たすことだけしか頭にないような言動の数々である……。西井氏が語る。

「1934年(昭和9年)に制定された現在の三光院の寺院規則では『代表者(住職)が役員の任命を含め、寺院にかかわるすべての事柄を独断で決定できる』ことになっています。以前より、柔軟な議論、意思決定が行えるように、いまの時代に合った新規則を制定すべきという議論がありました。そこで、小泉氏も同席のもと、昨年12月5日に行われた責任役員会において、合意をとりつけて、2月16日に東京都に書類の提出を予定していました(小泉が参加していたことを証明する議事録あり)。

 ところが、あろうことか、小泉氏は、昨年12月23日に無断で宗教法人の実印を変更し、新規約の改正にストップをかけてきたのです……。先日(3月26日)も娘とグルになり、本堂を無断で占拠して怪しげなダンスのイベントを開催したり、三光院の三代目住職に就任して以来、小泉氏は、自身の協力者たちと共謀し、現在の規則を盾にとり職権を濫用することで、寺院の私物化を企てているとしか思えません」

記者が小泉住職のもとを訪ねると…
終始、記者の質問をはぐらかすような態度をとる小泉住職

住職を直撃取材すると…

 記者が三光院を訪ね、小泉氏に取材を行った。

−−三光院境内の土地を売って老人ホームを作ろうとしている?

「とんでもない。わたしは、そんなこと一切言ったことはありません」

−−宗教法人三光院の実印を独断で変更したのか?

「それについては答えられません」

−−三光院の元料理スタッフに「料理修行ではお金を稼ぐことができないから、若返りの薬を売らないか?」と勧誘したのは事実でしょうか?

「そんなことはないです。一切ないです」

−−新規則の改正、三光院の単立化について、昨年12月5日に行われた責任役員会議に参加して、同意したのではないか?

「すべて、わたしがいないところで決まったことです。勝手に決められた。最近、体調を崩していて、今日(日曜日)もこれから病院に行かないといけないの……」

 一切の煩悩にとらわれずに生きることが、本来、仏教が目指すべき道なのではないか……。

取材・文/大崎量平 「週刊現代」2023年5月6日・13日号 掲載記事 初稿


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